旅は憂いもの辛いもの
1996年1月21日
何やら朝から大きな声が聞こえる
ワタルだ、コテージの管理の人などに当たり散らしている。
こいつは日本人の恥だ
別のコテージの人が来て、タイ語と英語で私に説明してくれているようだ
言葉は理解できないが、どうやらワタルが
チェックアウトしたらしく
その時の対応が悪かったと因縁を付けて騒いでいるらしい。
少しワタルをなだめに行くか
「ワタル少し落ち着けよ」
「なんだと、俺は落ち着いている」
「こいつらが、俺の事を馬鹿にしているから許せないんだ」
「この人たちはそんな事思っていないし、お前に何か言ったのか」
「うるさい、お前も俺の事を馬鹿にするのか」
「馬鹿になんかしてないよ、何が気にいらないんんだ」
「お前もこいつらも、俺の事をくさいと思っているだろう」
「ワタル被害妄想がひどすぎるぞ」
「うるさい、もう俺に話しかけるな」
ワタルはボートが着く桟橋の方に喚きながら歩いて行った。
コテージのスタッフ達は両手を広げて手のひらを上に向け
よく外国映画で見るシーンのように、肩をすくめた。
しょうがない、バンコクに戻るか
船が迎えに来て、ワタルと私その他観光客などが乗り込み船は出港。
港に着いて、バスに乗り換え一路バンコクへ
船でもバスでもワタルは私と離れ一言も話さず、バンコクに着いた頃はもう日が暮れていた。
カオサンに向かっていくバスは渋滞で、
途中でバスを降りる人もちらほら
軽い眠気が襲う、気が付くと3つ前に座っていたワタルの姿がなく、いつのまにか下車したみたいだ。
ワタルがどこかで降りて、視界からいなくなると、何故か寂しい気持ちになった。
彼の悩みを理解出来ず、せっかく知り合えた日本人との別れ
ワタルの本名も住所も知らない、カオサンロードで声を掛けられ
一緒に酒を飲み、マリファナパーティーに誘われ結果パーティーには参加できず
最後は「さよなら」も言わずにいなくなった。
俺は何をしているんだろう?
俺は何で旅をしているのか?
車中から外を眺めていると、牛丼の吉野家が見えた
日本と同じ看板だ
ドライバーさんに言ってバスを降りて、さっきみた吉野家まで歩く
騙されたと思って食べてみるかと勢いよくお店に
日本と同じ味だ
吉野家凄いな、バンコクにも吉野家があるんだからと、食べながら感心した。
久しぶりの日本食でちょっと里心がでてきた。
もう日本を離れて数ヶ月経つな
バンコクに来て、出会いと別れの連続だな
そろそろ日本に帰るかな、お金もさみしくなってきたし。
カオサンに戻るのもなんだし、チャイナタウンに泊まるか
台北旅社、お値段は少し高いけど、
ここはホットシャワーが出るから好きだ。
チャイナタウンに来るとなんとなくホッとする。
漢字があるし、少しなら中国語も話せるから
ここ数日ワタルに通訳を頼っていたから、
やっぱり語学は必要だ
もっと英語覚えないと、行動範囲が狭まるな、
日本に帰ったら勉強しよ。